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第23回砂型アルミ鋳造雑学講座

皆さんこんにちは!

株式会社長川原金属、更新担当の中西です。

 

~「試作2週→量産へ」~

 

 

製品開発〜量産立上げに焦点を当て、**“早く・安定して・狙いの物性で”**走り出すための実戦ガイドをお届けします。設計者・営業・生産技術・品質保証が同じ地図を見るための、ステージゲート方式のロードマップです。️


1|コンセプト整理:合金×形状×生産数の三角形

  • 合金選定

    • Al-Si(AC4C等):鋳造性◎、薄肉・流動性を優先。

    • Al-Mg(AC7A):耐食・溶接性重視。

    • Al-Cu(AC2A):強度重視(熱処理T6/T7前提)。

  • 形状:薄肉リブ・ボス・中空は中子設計が鍵。

  • 生産数:年間ロット数で砂型・ノーベーク・金型試作など投資判断が変わる。

目標物性(引張強さ/伸び/硬さ)と重要寸法のCPK最初に数値化して共有。


2|DFM(鋳造設計性)の診断チェック ✅

  • 肉厚マップ:極端な厚薄を緩和、肉盗みでホットスポットを分散。

  • R取り:内角はR2〜3以上で割れ防止&流動改善。

  • 抜き勾配:砂割れ防止&肌向上。

  • 基準面:機械加工の掴み基準を設計段階で決定。

  • 穴・ボス:コア有無、ベント径、コアプリント強度。

  • 湯口位置の自由度を残す形状か?(後から変更しやすいようボス/パッドを仮設定)


3|CAE(充填・凝固)で“失敗を先に潰す” ️

  • 充填解析:乱流/空気巻込みのホットゾーン、到達時間、温度フロントを確認。

  • 凝固解析:凝固順序、引けリスク、押湯効果、冷却条件。

  • 鋳巣シミュレーション結果を湯道3案で比較し、採用基準を明文化。

  • バーチャルDOE:注湯温度・速度・押湯断熱・コアベント条件を多点で走らせる
    試作回数を1回削れるだけで、開発費とリードタイムが大幅削減⏱️


4|試作(EVT/DVT)— 24時間で学び切る体制 ⚗️

  • サンプル数は最低n=5〜10でバラツキを把握。

  • 全数X線重要部寸法3次元測定欠陥地図を作成。

  • 金相(共晶Siの形態、Fe系介在物)や密度測定で内部品質を把握。

  • 熱処理炉内温度分布保持時間サーモロガーで裏取り。

  • ショートループ:試作日に成形→評価→その場で湯道改修→再鋳造まで回す“ワンデー改善”。⚡


5|PPAP/APQP視点の量産準備

  • FMEA(鋳造&仕上げ&機械加工):発生×重大度×検出で優先度を決定。

  • 管理計画書:砂QC、溶解温度、脱ガスH値、注湯温度、押湯観察、熱処理条件、検査規格。

  • 作業手順書(SOP):写真・ピクト中心で言語依存度を低く

  • 初期流動管理(ILC):初回ロットの100%X線/寸法を前提とし、合格トリガを明記。


6|量産立上げ(SOP)— “2週で安定”の運用モデル ️

  • 日次:砂QC、溶解H、温度分布、歩留まり、欠陥率。

  • 週次:湯道・押湯の見直し会、仕上げ手直しの再発防止

  • 月次:原材料(地金・回収材)ロット間差の評価、Sr/Ti-B添加量のリセット検証。

  • ばらつき源を潰す順序:①砂→②湯→③温度→④押湯→⑤熱処理→⑥仕上げ→⑦加工。

  • カイゼンの掟作業者を責めず工程を責める。再現性のない“勘”を数値化する。


7|熱処理で“狙いの伸び”を出す

  • 溶体化温度×保持時間:過剰は粗大化、不足は強度伸び不達。

  • 急冷:水温・攪拌・部品姿勢で歪みと残留応力が変わる。

  • 時効:T6/T5/T7の違いとバラツキ管理

  • 硬さ分布部位でマッピングし、線膨張差による反りを予見。


8|機械加工の“勝ち筋”

  • 鋳肌→基準出し→穴→タップの標準順序。

  • 刃具摩耗の管理:巣当たりによる刃欠けを画像AIで早期検知。

  • 治具設計鋳物基準で把持し、クランプ歪みを最小に。

  • 切粉処理:Al切粉の回収・再溶解までを一気通貫で設計。♻️


9|検査:X線・リーク・寸法SPCを一枚ダッシュボードに ️

  • X線判定基準(等級表)をサンプル画像付きで共有。

  • リーク:機密部はエア/水/ヘリウムいずれか。治具漏れを先に潰す。

  • 寸法CPK≥1.33を目安に、外れ値は工程へフィードバック

  • ダッシュボード欠陥率・歩留まり・再作業時間・H値・温度偏差リアルタイム表示


10|サステナビリティ:循環と脱炭素に効く7手

  1. 回帰砂再生率↑(焼成再生+微粉抜き)

  2. 溶解炉の高効率化(蓄熱バーナ・誘導炉)

  3. 廃熱利用(乾燥・予熱)

  4. 地金歩留まりの月次KPI化

  5. 発煙処理(RTO/スクラバー)

  6. LCAでの製品環境値を顧客と共有

  7. 再エネ調達夜間負荷平準化でCO₂原単位低減


11|人材と教育:技術を“見える化”して継承 ‍

  • 動画SOP:注湯姿勢・湯面・押湯の“見え”を一人称カメラで。

  • 技能マトリクス:砂/コア/溶解/注湯/仕上げ/検査でレベル管理。

  • 評価安全>品質>生産性の順。ヒヤリハット共有会で事故ゼロ文化を醸成。

  • 多能工化:繁忙変動に耐えるローテーション表を標準化。


12|ケーススタディ:薄肉ハウジングの“ひけ巣ゼロ化”

課題:中心ボス周辺に引け巣。
施策:肉盗み+押湯発熱化+ベント追加+注湯温度を-10℃、冷却制御で温度勾配を再設計。
結果:X線欠陥率が8%→1.2%歩留まり+9.5pt、機械加工サイクル▲12%。
学び湯道・押湯・温度・肉厚の同時最適が鍵。単独対策は限界がある。


13|まとめ

試作から量産立上げまでを一枚の地図でつなぐと、品質の初期値が一段上がります。

  • DFMチェックCAEワンデー改善PPAP/ILCSOP運用ダッシュボード可視化
    この循環が回り始めると、不良は“起きてから直す”でなく“起きる前に消す”へ。今日からできる一歩は、“欠陥地図”のテンプレ作成です。次の試作で、あなたの鋳物はきっと“最初から強い”。

 

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